俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
仕方なく布団に潜り込んで瞼を閉じる。
(病気になってもお姉ちゃんが先なんだな……)
わかっていたはずなのに、目の前で見せ付けられるとやはり寂しい。病室の大部屋がたまたま空いておらず、一人きりの個室を宛がわれたので尚更だった。
心の慰めは窓の外に広がる海だけだ。この病院は埋め立て地に建てられており、高層階のこの病室からなら青灰色の水面も見える。
眺めるともなしにその水面を眺めていると、次第にその青灰色に夕日の朱が混じっていった。
(……綺麗)
寄せては返す波の音が聞こえる気がした。
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。海の美しさには時間の経過を忘れさせる力があるらしい。気が付くと夕食の時刻になっていた。
と言っても、美波は今夜は絶食なので関係ないのだが。
廊下からワゴンをガラガラ押す音と、配膳係の女性が病室のドアをノックし、「高橋さん、失礼します」と声を掛けるのが聞こえる。
(隣の人は高橋さんって言うの)
どんな病気で入院しているのだろう。
ところが、配膳には数分もかからないだろうに、五分経っても隣の病室から出ていかない。それどころか、何やら揉み合う声が聞こえる。
「――俺は赤ん坊じゃない! 自分一人で食えないならメシなんかいらないって言っただろう! 余計なことするなよ!」
美波よりは大人で声変りも終えているが、まだ少年の面影の残るよく通る声だった。
「でも、翔君――」
「うるさい! 出ていけ!」
怒声と同時に割れ鐘を叩くような破壊音が響き渡る。
美波な思わず目を瞬かせた。
(えっ、もしかしてお盆を料理ごと引っ繰り返したの?)
(病気になってもお姉ちゃんが先なんだな……)
わかっていたはずなのに、目の前で見せ付けられるとやはり寂しい。病室の大部屋がたまたま空いておらず、一人きりの個室を宛がわれたので尚更だった。
心の慰めは窓の外に広がる海だけだ。この病院は埋め立て地に建てられており、高層階のこの病室からなら青灰色の水面も見える。
眺めるともなしにその水面を眺めていると、次第にその青灰色に夕日の朱が混じっていった。
(……綺麗)
寄せては返す波の音が聞こえる気がした。
それからどれだけの時が過ぎたのだろうか。海の美しさには時間の経過を忘れさせる力があるらしい。気が付くと夕食の時刻になっていた。
と言っても、美波は今夜は絶食なので関係ないのだが。
廊下からワゴンをガラガラ押す音と、配膳係の女性が病室のドアをノックし、「高橋さん、失礼します」と声を掛けるのが聞こえる。
(隣の人は高橋さんって言うの)
どんな病気で入院しているのだろう。
ところが、配膳には数分もかからないだろうに、五分経っても隣の病室から出ていかない。それどころか、何やら揉み合う声が聞こえる。
「――俺は赤ん坊じゃない! 自分一人で食えないならメシなんかいらないって言っただろう! 余計なことするなよ!」
美波よりは大人で声変りも終えているが、まだ少年の面影の残るよく通る声だった。
「でも、翔君――」
「うるさい! 出ていけ!」
怒声と同時に割れ鐘を叩くような破壊音が響き渡る。
美波な思わず目を瞬かせた。
(えっ、もしかしてお盆を料理ごと引っ繰り返したの?)