俺様エリートマーケッターの十年愛〜昔両思いだったあの人が、私の行方を捜してるそうです〜
 ――手術当日、美波は学校だったが、授業中も休憩中もずっと翔の手術の成功を祈っていた。

 手術の成功率は九〇パーセント以上だと聞いている。しかし、世の中何が起こるのかわからない。なんの罪もない翔が事故に巻き込まれたように――。

(神様、どうか翔君の手術が成功しますように……)

 ただ祈ることしかできない自分がもどかしかった。

 ――それからしばらく翔と会うことはなかった。

 術後の一週間はテレビも読書も禁止だと聞いている。

 その間ひたすら神様に祈り、ドキマギするしかなかったが、一ヶ月経った頃にスマホのLIMEに連絡があった。学校帰りの地下鉄の座席に座っていた時のことだった。「目が見えるようになったら、ここに連絡してね」とアカウントを教えておいたのだ。

 緊張しつつ画面を開いて目を見開く。一枚の写真が送られていた。

 両目の眼帯を外した翔が、ピースサインをしながら笑っている。母親か看護師に撮ってもらったのだろうか。

 翔がまだサッカーをしていた頃の写真は、ネットに何枚か掲載されていた。ユニフォームを身に纏い、シュートを決める翔の姿はそれはカッコよかった。

 だが、美波は今の翔を見たかったのだ。これから新たな道を歩み始める大好きな人の顔を――。

 その願いが今叶った。

(……翔君、こんな目をしていたんだ)

 屈託のない笑顔が眩しい。

「やっぱりカッコいいなあ……」

 髪の色と同じダークブラウンの、意思の強そうな真っ直ぐな目をしている。

 目の奥からぐっと熱い涙が込み上げてくる。慌てて拭って続けて送られてきたメッセージを読んだ。

『手術大成功! まだ見えたり見えなかったりしてるけど、もう何ヶ月かしたら安定するって。一年は様子見になるけど、近いうち海に一緒に行けると思う。というか、行こう。本当は今すぐにでもナツに会いたい』

 ――今すぐにでも会いたいんだ。

 地下鉄がガタンガタンと音を立てながら進んでいく。

(ごめん……翔君。もう会えないの……)

「えー、次は、T見、T見。右側のドアが開きます」

「……」

 車内アナウンスのタイミングに合わせて、管理画面を開きアカウントを削除する。

 返信をしてはいけないと思った。「さようなら」と別れを告げることも。

 会う前に面倒になって、フェードアウトした――そう思ってほしい。何も言わずに離れるなんて卑怯だと嫌いになってほしい。その方が早く忘れられるだろうから。

(だから、これでいいの)

 美波はそう自分に言い聞かせてスマホをスクールバッグにしまった。
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