ロマンスに、キス



教室に入って、自分の席に腰を下ろした瞬間、待っていたかのように、周囲から人がワッと集まってきた。

ざわざわ、ざわざわ――



「柏谷さん、佐野くんと付き合ってるってほんと?」

「いいなあ、佐野くんとお似合いなの、柏谷さんしかいないよね」



――お似合い、なんて言わないでほしい。

心の中で、無意識に眉がピクリと動く。口には出さない。出した瞬間、相手の思う壺だから。



「佐野くん?とは付き合ってないよ〜。第一、今初めて名前聞いたもんっ」



少し首を傾げて、わざとらしくない程度にかわいこぶる。

――イメージは絶対に崩せない。
かわいいあたしでいなきゃ、誰にも悪く思われない。
“天使”でいることが、あたしの武器だから。

佐野(さの)―あのヘッドフォン男。
そんな名前らしい。
名前を知ったところで、印象が良くなるわけじゃない。
むしろ、余計に腹立たしい。



「そうなの? どっから噂出たんだろーね?」



誰かが首をかしげる。もちろん昨日のアレしかない。
でも知らないフリをしておくのが、賢い。
表情ひとつ変えず、首を少しかしげるだけ。


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