【番外編追加】ロマンスに、キス



「…なんだよ、やめねーからな」



佐野の声が低くて、背中の奥まで震える。



「…っ、そんなんじゃないしっ…」



否定したはずなのに、手は勝手にぎゅっと縮こまってしまう。

そんなあたしを佐野は真っ直ぐに見て、



「じゃあ、その手どけて。声、聞かせて」



——聞かれたくない。

ほんとに、聞かれたくない。


だって佐野と違って、あたしは初めてで、どうすればいいのかも、どんな顔をしていればいいのかも分からない。


ただ一つだけ分かってるのは、佐野の前では可愛くありたい、ってことだけ。



「さ、のっ…かわい、い?かわいって、言って…くれないとっ、」



情けないくらい震える声。
そんなの聞かせたくなかったのに。


佐野は一瞬だけ目を細め、すぐに落ち着いた声で言った。



「可愛いよ。どんなお前も、世界一可愛い」



胸の奥がぎゅうっと熱くなる。
そんなふうに言われたら、どうしたらいいかわからなくなる。


自分でも触れたことがないようなところまで、隅々佐野に触れられて、その度に体が震える。



「…お前、敏感すぎ」



軽く笑われたけど、言い返す余裕なんてない。

息が浅くなるばかりで、頭の中が熱で溶けそうだった。


——なのに。


ふと佐野を見ると、

彼のほうも余裕なんてほとんどなくて、乱れた息遣いと、追いつめられたみたいな顔であたしを見ていて。


その顔が、どうしようもなく、愛しかった。


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