【番外編追加】ロマンスに、キス



「…、力抜けっ…」



佐野の声は低いのに、どこか必死さが滲んでいた。



「む、りっ…」



ほんとうに無理だった。
怖いとかじゃなくて、体が勝手にこわばって、力が抜けない。


初めてだって、何回も言った。
何が普通かなんて分からないけど、佐野がゆっくり時間をかけてくれているのは、ちゃんと分かった。


怖くないように、
投げ出されないように、
置いていかれないように——

そんなふうに扱われているのが分かった。



「さ、のっ…す、き」



そう言った瞬間、胸の奥がぎゅっと縮んで、お腹のあたりまで一気に熱が走り、よりいっそう苦しくなった。


佐野の顔が一瞬ぐしゃっと歪む。



「…お、まえっ…まじでっ…」



声が震えていて、余裕なんてどこにもなかった。


嬉しい。
好き。
大好き。


その気持ちを悟られた瞬間、佐野の眉が下がって、どうしようもなく愛しいみたいな顔になって。


次の瞬間、あたしはぎゅっと抱きしめられていた。
逃げ場なんてないくらい強く、でも苦しくない抱きしめ方で。



「あっ……」



耳元に近づく息が熱くて、心臓が変な音を立てる。



「俺も、好きだよ」



低く甘い声が、耳の奥に落ちていくみたいで、その瞬間、体のこわばりが少しだけ緩んだ。


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