ロマンスに、キス
佐野は少しだけ眉を上下させて、困ったような、でも諦めたような表情をした。
「んー。俺も、分からん」
低い声でそう言われた瞬間、また心臓が跳ねた。“分からん”って何。気持ちがあるのか、ないのか。あたしを揺さぶりたいだけなのか。
でも、そこには、嘘がない気がした。あんた、ほんとにずるい。曖昧な返事。わからないなんて、じゃあ、最初からするなよ。
胸の奥でそう毒づいていると、佐野が少し身を屈めて、覗き込むようにあたしの顔を見た。
「いや?」
たった二文字。
でも、すごくずるい聞き方。 嫌かと聞かれれば、嫌じゃない。……けど、嫌な気もちょっとする。その境界が分からなくて、胸がぎゅっと苦しくなる。
「い、や」
震えた声が自分でも分かる。緊張で喉がうまく動かない。さっきまであんなに安心して、佐野の肩に頭を預けて眠れそうだったのに、急に全部が不安定になる。
佐野は軽い声で、「そ」と返しただけで、スマホを取り出してポンポンと触り始めた。
……は?
この男、あたしに2回も無断でキスしておいて、謝る気なんてさらっさらない。普通、気まずさとかないの?罪悪感とか、ないの?
キスした本人の方が落ち着いてどうするの。
でも、たぶん。あたしが嫌がらなかったのなんて、最初から見抜いてる。
ずるい。 全部分かってて、何も言わない。