ロマンスに、キス
ほんのさっきまで目を閉じていたせいで、視界がぼやけて、でも佐野だけはくっきりとわかる。唇に残る、あの感触。
「(……キス、された)」
理解した瞬間、心臓がドクン、と派手な音を立てて暴れだす。胸の奥が熱くて、落ち着かなくて、どうしたらいいか分からない。
でも。動揺してるって悟られるのが、なにより悔しい。だから、できる限り、平然を装って息を整えた。
佐野は気まずそうでも照れてるわけでもなく、いつもと同じ、あの気の抜けた顔のまま。
「あ、悪い」
その声音は、一ミリも悪いと思ってないやつが言う“悪い”だ。分かってる。今さら騙されない。
「…あんた、ほんと、どういうつもり?」
言葉は刺すように言ってやった。
でも、あたしは――佐野の右肩に乗せた頭を、そのまま動かさなかった。
ほんとは距離を取るべきなのかもしれない。そうしないといけないって、頭では分かってる。
でも、離れたくなかった。
そのことを佐野に悟られたら負けなのに、勝ち負けも分からなくなるくらい、胸がざわざわしてる。