ロマンスに、キス



佐野のバカ。

あたし、お弁当まだ食べてないんだからね。
さすがにお腹が限界。佐野の前でお腹の音を鳴らすのは不服なので、戻ることにする。

あたしが立ち上がっても微動だにしないこの男に、腹を立て、「起きろ!」と耳元で叫んでやろうかとも思ったけど、寝顔が意外にも可愛くて、そんな気が起らなかった。

せっかく立ち上がったのに、お昼寝中の佐野の前にしゃがむ。
生ぬるい風に佐野の髪が揺れている。

寝ているのに、髪が風のせいでかゆいのか、眉間に皺。



「…ふふっ」



その様子がおかしい。寝てるのに不機嫌。変なの。

でも、さっきの喧嘩を思い出してしまって、ついムッとしてしまう。



「…佐野のバーカ」



聞こえててほしい。

すると、さっきよりも眉間に皺。分かりやすい顔だ。感心。

立ち上がって歩き出そうとすると――



「じゃーな」



佐野の声が聞こえた。
振り向くと、目を瞑ったまま。

舐めてる。
いつもだったら、ここで怒るところだけど、なんとなくむず痒くて――「ん」と、佐野みたいな返事をしてしまった。


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