ロマンスに、キス



「……お前は、どうなんだよ。俺といるの、楽しくねーの?」



その声が、耳に入った瞬間、心臓が跳ねる。

──廊下で、こんなに近くで、こんなことを平気で言える人が、同じ学校にいるなんて。



「な、は……っ、」



思わず息が詰まる。
頬が熱を帯びて、意識が全部、佐野に集中する。
こんな時に限って、目は逸らせない。
でも、言葉が出ない。


なのに――

胸の奥が、じんわりあったかくなっていく。
さっきまで渦巻いていたモヤモヤが、すーっと溶けて、空気みたいに薄くなる。
気づけば、全部正直に言いそうで、怖くなる。
だから、黙る。
逃げるように、視線を逸らす。



「……しょうがないから、行ってあげる……」



小さく、呟いたつもりが、ちょっと震えている声。



「はは、上から目線」



その声が、やけに優しく響く。
ムッとするけれど、口元が、思わず緩みそうになる。

だって──誘ってきたのは、そっちでしょ。
当たり前じゃん。


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