ロマンスに、キス
「携帯出して」
「なんで?」
「連絡先」
あたしの顔の前に、自分の携帯出す佐野。ポケットから自分の、ピンクのカバーをつけたかわいい携帯を取り出す。佐野はそれを見て、「ぽいわー」なんて言いながら、自分の携帯を弄る。
これからも遊ぶなら、仕方ない。あくまで“仕方なく”だけど、佐野と連絡先を交換することにした。
未読の通知が100件以上も溜まった中、履歴の一番上に、佐野の名前がある。佐野のアイコンを見ると、初期設定のままのまっさらなシルエット。
そして、はじめて知った、佐野のフルネーム。
「下の名前、なんて言うの?」
「朱李」
――意外だった。綺麗な名前。そして、意外にも不思議と違和感がなくて似合ってると思う。朱李。やっぱりきれいだな、と思う。
とはいえ、名前を知ったからといって、呼ぶわけじゃない。
「ねえ、佐野。今日は、どこ行く気?」
「映画」
「また?」
「いや?」
「別に、いいけど」
別に、ね。うん、別にいいけど。
「なんかご機嫌だな?」
「そお?」
うん、そうかも。
チャイムが鳴って、佐野と別れた後の足取りは、いつの間にか軽くなっていた。胸の中にぽっと温かいものが残っていて、気づいたらあたしは小さな鼻歌を口ずさんでいる。