ロマンスに、キス



「おい、なんか言えよ。なんも変わってねーな」



上から落ちてくる、嫌いな声。
一瞬で、あの頃の自分に引き戻された気がした。胸の奥がざわざわと締めつけられる。



「…っ、」



――言葉が出ない。出せない。



「一千華」



佐野の声が耳に入って、思わずホッとした。心の奥底で、ほっとする気持ちと、はずかしい気持ちが入り混じる。視界から嫌いな男を消して、佐野だけを見つめた。


――お願い、助けて。


自然と足が前に出て、駆け寄る。



「知り合い?」

「ううん、知らない! 行こ!」



いつもならしない強引な行動。けれど、この場から一刻も早く逃げたかった。佐野の腕を強く引っ張る。最悪だった。

弱いところを、泣きそうになっているところを、佐野に見られたくなかった。

――あいつ誰?なんて、余計なことまで聞いてくる佐野にも、イライラしてしまう。
放っといてほしいのに。
黙っていてほしいのに。


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