ロマンスに、キス



「ほんとに、いいん?」



佐野は、あたしとあいつがどういう関係なのか知らない。
知る必要もない。話そうとさえ思っていない。分かってもらう気だってない。



「おい、一千華」

「もう、黙ってよ!!」



掴んでいた佐野の腕を、思い切り振り払った。
感情のままに、何も考えずに走り出す。気づけば、駅とは真逆の方向に来ていた。

佐野みたいに、察しの悪い男は嫌い。ズカズカと踏み込んでくる男も嫌い。



「お前、なんで急にキレてんだよ」

「うるっさい!嫌い!話しかけないで!」



目の端で佐野が、なんだこいつ、とでも言いたげな顔をしているのが見える。
それにも腹が立つし、公衆の面前で声を荒げる自分にも腹が立つ。
これは私じゃない。


弱い部分なんて誰にも見せたくない。
佐野相手だとなおさら。
なのに、心のどこかで、あいつの存在を求めてしまう自分がいる。
こんな自分、絶対に見せちゃいけないのに。


足取りは荒く、息は乱れて、心臓が口まで飛び出しそうなほど高鳴る。
頭では「落ち着け」と叫んでいるのに、体は勝手に感情を表に出してしまう。
泣きそうな気持ちも、怒りも、全部抱えたまま。


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