季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

みんな少しずつ大きくなる。たぶん俺も、多かれ少なかれ。

「由紀はさ、あれは心配になんないの?」


 ある日の町内会の集まりで知り合いに声をかけられた。

 そいつが指差す先では澪が理人と話している。


「何が?」

「江里は若くて顔が良くて金がある」

「うん」

「カミさん取られそうとか思わない?」

「思わない。理人はそんな男じゃない」


 そう言い切ると、そいつはつまらなさそうな顔で去って行った。

  ……別に俺は江里理人と仲がいいわけじゃねえ。

 でもあれは藤乃の弟分だ。

 人妻に手を出す人間を、藤乃が可愛がると思わないだけだ。

 それに江里にも長く付き合ってる彼女がいる。

 澪とは系統の違う派手な美人だ。


「瑞希さん、澪さんをお返ししますね」

「うん。澪は必要な確認はできたな?」

「はい、問題なく。お時間いただきありがとうございました」


 澪が頭を下げ、理人は微笑んで背中を向けた。

 理人と初めて会ったのは、あいつがまだ小学生で、藤乃が一人暮らししてた部屋で宿題してたときだ。

 それが、こんなに立派になっちまって。

 藤乃とは違うけど、俺もたまに会う親戚のおっさんみてえな気分で理人の成長を見てきた。


「瑞希さん?」

「んー、あいつもデカくなったなーって」

「そうですねえ。江里さんの次期社長候補ですよね」

「そうみたい」


 江里のじいさんがこの前社長やめて、理人の親父が継いだ。だからまあ先の話だけど、あいつがそのまた後を継ぐらしい。

 ……って話を藤乃から聞いた。


『なんか、理人が茉利野と結婚したいって親御さんとおじいさんに挨拶に行ったら、「じゃあ引退して家督を息子に引き継ぐ」って言い出したんだってさ。逆に仕事が忙しくなって式の準備が進まないって理人がぼやいてた』


 ということらしい。

 金持ちは大変だな……なんて他人事みたいに聞き流したけど、俺は俺で澪との式が近いので慌ただしい。


「……なんか、みんなでっかくなってくんだよなあ」

「瑞希さん……親戚のおじさんみたいですよ」

「似たようなもんだろ」

「私たちも考えないとですね」

「ん?」

「入籍したら、由紀の跡取りについての検討も必要だと思います」


 ……俺は、なんて答えりゃいいんだ。

 笑顔の澪を見つめる。


「そだね」


 なんていうか、逆らえない顔だった。

 日に日に澪はお袋に似ていく。

 まあ……いいか。

 親父はあれで幸せそうだし。

 俺も多分、ああいう感じになるんだろう。
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