季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

チキン

「やっぱ、クリスマスと言えばチキンだよな」


 十二月のある日の昼過ぎ。俺、由紀瑞希が台所でそう言うと、妻の澪が微笑んだ。


「そう言うと思って、予約してありますよ」

「お前と結婚して、本当によかった」

「今年は鶏を丸ごと一匹用意していますから、楽しみにしててくださいね」

「おー、さすが。いや、一匹ってけっこうデカいんじゃねーの?」

「止めますか?」

「止めない」


 さほど長い付き合いでもねえけど、妻は俺のことをしっかり分かっていて、俺は相変わらずいいように転がされている。

 しかし鶏一匹か……楽しみだな。

 ワインとか用意した方がいいかな。


「瑞希さんはテーブルに飾る花を用意してください」

「えっ、やだ」


 嫌だ。

 うちは花農家だから、花は贈ったり飾ったりするものではなく、売るものだ。

 仕事として関わってるからか、生活の中に花を入れたくない。

 できる限り、俺は家の中に草花を持ち込みたくなかった。


「花菜が、クリスマスリースを欲しがってるんです」

「なんで?」


 花菜は二歳の娘だ。

 今は日当たりのいい和室で、大の字で昼寝をしていた。

 見た目は澪に似たおしとやかな美人なのに、喋ると俺そっくりのやんちゃ娘だ。


「本屋さんでクリスマスの絵本を見て、欲しくなったみたいで。百均で済まそうとしたら、小さいとごねて」

「あー……そう……」


 考えると言ってその場を離れた。



 仕事を終えて家に戻ると、花菜が飛び出してきた。


「パパ! にく!」

「肉?」

「ママが、おーきい、おにくするって!」

「クリスマスに?」

「そう! かなねえ、さんたさんに、おいしいものぷぜれんとするから」


 なんかもう、あっちこっち間違ってるけど、本人が楽しそうだから突っ込まない。


「瑞希さん、おかえりなさい」

「ただいま、リースはもう、いいんだ?」


 出てきた澪に聞くと、苦笑して口元に人差し指を立てた。


「もう忘れちゃったみたい。それより、あの子が昼寝から起きたときに、私が鶏の料理の仕方を調べていたから、そっちが気になったみたいで」

「それならそれでいいけどさ」


 手を洗ってリビングに行ったら、花菜は同居してる俺の親父と並んで、クリスマス向けの料理番組を熱心に見ていた。ローストチキンとか、サラダとか、ジンジャークッキーとか。


「じーじ、あれつくれる?」

「俺には無理だ。ばあさんかママに頼め」

「じゃあ、つくりかた、このかみにかいて。ママにおねがいしますってする」

「折り紙には書ききれねえなあ……」


 折り紙とクレヨンを渡された親父が苦笑していた。

 子どもがクリスマスを楽しみにしてるのは、なんつーか、いいもんだった。
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