季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

スケート

「おとーさーん、これ行きたい!」


 五歳の息子、藤也が持ってきたのは、近くの運動公園にスケートリンクがオープンしたというチラシだった。冬の間だけやっているらしい。


「こんなんあったっけ?」


 一緒に花屋の店番をしていた妻、花音ちゃんに聞いたら、


「毎年やってたよ」


 と当たり前のように言われた。

 花屋は冬は忙しくて、学生の頃からずっと店で働いてたから知らなかった。


「私もたまにお兄ちゃんとか友達と行ってたし。でも藤乃さんは誘っても絶対に行かないから誘わないってお兄ちゃん言ってた」

「そっか。まあ行かないんだけど。じゃあ瑞希に連れて行ってもらえばいいかな」

「藤乃さん、図々しいよ」

「そのとおりです……」


 花音ちゃんにきっぱり言われると言い返せない。

 足元では藤也が満面の笑みで折れを見ていた。


「……俺一人で連れて行ける気がしないから、瑞希と花菜ちゃんも誘います」

「わかった。桔花と蓮乃もよろしくね」

「ぐう」


 瑞希に電話したら二つ返事だったので、日付を決めた。

 仕方ない、覚悟を決めるか……。



 約束の日、俺は子供三人を連れて運動公園にやってきた。


「よーお、藤乃。ちびっこ共も」

「みんな、こんちわー」


 先に着いていた瑞希と、娘の花菜ちゃんと合流してスケート場に向かう。


「藤乃、スケートとかできんの?」

「できるわけないだろ」

「転んだら写真撮るから教えてくれ」

「ふざけんな、助けてください」

「あはは」


 受付をしたら、子供用の小さいスケートリンクに案内してくれた。平日の昼過ぎだから誰もいない。

 まず藤也にスケート靴を履かせたら、


「よっしゃー、いちばんのり!!」

「あ、ちょっ」


 すごい勢いで飛び出して行ってしまった。


「俺が追いかけるから、双子にも履かせとけ。花菜は桔花と蓮乃と手えつなげ」

「やだ! とーやくん、まってー」

「おい!」


 瑞希が藤也と花菜ちゃんを追いかけていったので、俺は双子の桔花と蓮乃にスケート靴を履かせる。自分も履いて、立ち上がろうとして、ひっくり返った。


「痛え……」

「おとーさん、だいじょうぶ?」

「だめ?」

「だめ。腰打った」

「て、つないだげるね」

「ありがと……」


 俺はよたよたと娘たちに手を引かれながら、壁沿いをゆっくり進む。

 藤也と花菜ちゃんは、真ん中辺りをぐるぐる追いかけっこしていた。

 瑞希はそれを近くで見ながら声をかけている。


「藤也ーもう少し外側走れー、花菜は内側! あんまくっつくな、ぶつかるから!」

「はーい」

「パパ―しゃしん、とってー」

「はいはい」

「ぼくも、ぼくも!」


 瑞希を連れてきて本当によかった。

 俺も子供たちや瑞希の写真を撮って、花音ちゃんに送っておく。

 桔花と蓮乃はいつの間にか俺をほったらかして二人でフィギュアスケートごっこをしていた。少し前にテレビで見たらしい。


「きっちゃんせんしゅ、すばらしいすべりでーす」

「はーちゃんせんしゅ、これはしゅごい」

「かなちゃんせんしゅははやいれすねー、あ、とーやせんしゅとぶつかりましたー」

 のんびり動画を撮っているうちに藤也と花菜ちゃんがぶつかって、藤也がぎゃあぎゃあ騒いでいた。

 花菜ちゃんは普通に起き上がって、瑞希の周りをくるくる回っている。


「おとーさーん、いたいのとんでけして!!」

「俺、そこまで滑っていけないんだけど」

「ぼくがいくよう」


 藤也はもう普通に滑っていた。


「お前、スケート上手だね」

「でしょー? みててねえ」


 痛いのはもうどこかにいったらしく、藤也はまたびゅんびゅん走り出した。


「上達が早いな……」

「藤乃が下手くそすぎるんだよ」


 呆れたように笑う瑞希に肩をすくめて見せた。


「俺に運動機能ついてないんだ」


 そんな感じで二時間くらい遊んで帰った。

 次の日は筋肉痛で、二度と行きたくなかったのに、楽しかったらしい子供たちにせがまれて、冬いっぱい週一で通わされた。
 
< 35 / 55 >

この作品をシェア

pagetop