季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい
 改札を出て花音の家の車を探したら、小柄な影が手を振っていた。


「瑞希さん、おかえりなさい!」

「澪!?」


 近づくと、澪が困ったような顔で見上げている。


「あの、すみません、花音さんが一緒にって誘ってくださって」

「お兄ちゃんは私に感謝して? 会いたいかと思ったんだよ」

「うん……ありがと……」


 そわそわしてる澪を抱きしめたら、温かくてやっと安心した。



 花音の運転する車で家に帰る。

 藤乃と花音を見送ってから風呂に入って部屋に戻った。

 少し待つと、風呂を終えた澪がやってくる。

 夏が終わる前に寝室を一緒にして、それからはずっとくっついて寝てる。


「疲れたからさっさと寝ていい?」

「もちろんです」


 澪は微笑んで、俺の腕の中に収まる。


「はー……」

「……そんなに、大変だったんですか……?」

「んー、うん。でもまあ、いいんだ。最後にはめちゃくちゃのろけてきたから」

「えっ……そう、ですか……」

「……嫌だった?」


 聞くと、澪は俺の背中に回した手で、シャツを強く握った。


「いいえ、嬉しいです。……その、えっと、帰ってきてくれましたし」


 思わず腕の力を強めた。

 潰さない程度の力で澪を抱きしめる。


「俺の帰る場所なんて、ここしかねえよ」

「そっか。それなら、いいです」

「澪、あのさ……」

「瑞希さん。何かは知りませんけど、お姉さんがたくさん甘やかします。よしよしもします。あと、何をしてほしいですか?」


 腕をほどく。

 見上げてきた澪の瞳が星みたいに光ってて、いつもより大人びて見えて、自分のほうが年下だって思い知らされた。

 ……それが意外と悔しくなくて、まあ悪くない。


「じゃあ……叱ってほしい」

「えっ?」

「俺、馬鹿だったから、叱ってほしい」

「なるほど……叱ったことはありませんが……」


 澪がむむっと口をへの字にした。

 少し考えてから、また顔を上げた。


「瑞希さん、悪いことをしたと思いますか?」

「思います」

「反省していますか?」

「してます。もう、しません」

「では許します。あとは私を満足させてください」

「……どうやって?」


 胸元に擦り寄る澪に囁くと、ニコッと笑顔が返ってきた。
 

「瑞希さんの、得意なことで」


 気づいたら俺は澪の手のひらで転がされてて、なんか覚えがあると思ったら、親父とお袋そっくりだってやっと気づいた。
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