『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
「さあ、まずは我が邸へ。道中は安全を確保しています。
長い旅路でしたね。今日は恐れも不安もすべて置いて、休んでください。」

オルフェウス公爵は馬車に乗り込むよう促し、
従者たちが周囲を固める。

公爵邸はウィステリアらしい白壁と青い屋根の、
落ち着いた気品溢れる建築だった。
中に通されると、
暖炉が優しく灯り、
昼とは思えないほどの温かさに包まれる。

まずシルヴィアに湯と新しい衣服が用意された。
細かな刺繍が施された淡青のドレスで、
彼女の白銀の髪を引き立てる清廉な色合い。

鏡の前に立ったシルヴィアは、
少しだけ涙ぐんだ。

「……人間らしい姿に戻れた気がする……」

逃避行中はまともに入浴はできなかった。
冷たい川の水で身体を拭いたり、
エルヴィンに髪をゆすいでもらったり。
温かいお湯で、
石鹸を使ってお風呂に入れるなんて
なんて贅沢なんだと感動すら覚えた。

クラウスは髪と服を洗い、
顔色が明らかに良くなった。
エルヴィンも旅装を解き、
深緑の正装へ着替える。
背を伸ばし、鏡を見るその姿は、
久しく忘れていた“貴族の若き当主”の風格
そのものだった。

三人が揃って食堂に案内されると、
公爵が待っていた。

「食べて、眠って、心を落ち着かせてください。
――明日、ウィリアム国王陛下とアリス王妃陛下が、あなた方と会うことを望んでおられます。」

シルヴィアの背筋がピンと伸びる。

「本当に……陛下は私たちを受け入れてくださるのでしょうか」

オルフェウス公爵は穏やかに微笑む。
「ええ。あなた方は“選ばれた”のです。
ウィステリアは、志を持つ者を拒みません。」

その夜、
三人は久々に恐怖なく眠りについた。
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