『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
翌朝。
ウィステリア王宮へと向かう馬車は、
静かな威厳をまとって進む。

王宮は薄い藤色の石で造られ、
朝の光を受けて淡く輝く。
エルヴィンもクラウスも、
息をのむ美しさだった。

馬車の中、
隣に座る妻のドレスを見て
エルヴィンは静かに微笑む。
シルヴィアが纏っていたのは
革命前夜にエルヴィンが贈ったあのドレス。
オルフェウス公爵家の侍女によって
丁寧に化粧が施され、
髪も美しく結われている。
朝日に照らされるシルヴィアは
まさに白銀の妖精そのものだった。

まさかこの後、
このドレスが大きな意味を持つことになるとは
エルヴィンもシルヴィアも思ってもいなかった。

エルヴィンの視線に気づいたシルヴィアは
僅かに頬を赤く染め、
緊張しているのかエルヴィンの袖を軽く握る。
エルヴィンもシルヴィアの膝の上に
そっと手を置く。

「大丈夫、シルヴィア。ここまで来られた。
――もう、誰も君を傷つけることはない。」

二人の目の前でクラウスも
こっそりと拳を握りしめる。
(神よ……エルヴィン様とシルヴィア様を守ってくださってありがとうございました……)

玉座の間へ続く長い廊下。
白い大理石の柱が続き、紅い絨毯の先に、
重厚な扉がそびえる。

その扉の前で、
オルフェウス公爵が振り返った。

「準備はよろしいですか。
間もなく、ウィステリア国王夫妻に謁見となります。」

エルヴィンは息を整えた。
シルヴィアは胸に手を当て、
心の鼓動を感じながら進む。

クラウスは深く頭を下げ、
主であるエルヴィンの背を押すように立った。
「行ってらっしゃいませ。私はここでお待ちしております。」

扉が、静かに……開いていく。

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