『ドレスに宿る誓い』―Elara & Lanois 王国を変えた仕立て屋たち―
ふいにアリス王妃の瞳が
シルヴィアを捉える
そしてふわりと目を細められた。

「まあ……そのドレス、とても素敵ね。動きやすそうで、肩も軽やか。布も縫い目も丁寧で、着心地がとても良さそう」

王妃に話しかけられて、
シルヴィアが驚いて目を瞬く。
エルヴィンはなぜだか気恥ずかしくて、
つい一歩後ろに下がってしまう。

「ユーフォルビアは繊維業が盛んだものね。こんな素晴らしい腕をもつ職人がいるなんて。どちらの工房で作られたのかしら?」

エルヴィンは息を飲み、
そして意を決して告白した。

「……お恥ずかしい趣味かもしれませんが。私が妻のために縫製しました」

「恥ずかしい?」
アリス王妃は目を丸くし、
微笑みと共に首を振る。

「なんてこと!これほどの技術を、“恥ずかしい”なんて言ってはいけないわ。あなたの服は……着る人への“思いやり”が縫い込まれた、素晴らしいものよ」

胸に温かいものが広がる。
生まれて初めて、
誰かが自分の技術をまっすぐ肯定してくれた
――そんな感動がエルヴィンを包んだ。

 王妃はさらに言葉を続ける。
「こんな素晴らしい才能、眠らせておくなんて勿体ない。ウィステリアは、挑戦しようとする者を応援する国です。あなたが望むなら、ぜひ広い世界に――あなたの服を羽ばたかせてみては?」

 その隣で、ウィリアム国王もうなずく。
「エルヴィン。志ある者を我々は歓迎する。もしその気があるなら、ウィステリアで志を形にするがよい」
< 74 / 134 >

この作品をシェア

pagetop