元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
「よく言ったね、ナミ。」


「柚希・・・。」


「だったらもう、ナミがやることはひとつしかないじゃない。」


「それはそうなんだけど・・・。」


「何か躊躇う理由、ある?」


「私、彼の上司だし・・・。」


「そんなの関係ないと思うけど。」


「それに・・・。」


「それに?」


「彼がそれを望んでるとは思えない。」


「なんで?」


「なんでって・・・。今はそうでもないけど、私、彼に嫌われてたし。」


「苦手だって言われただけでしょ?」


「同じだよ。」


「湊が戻ろうと思ったら戻れたはずの音楽の世界に背を向けて、ナミと一緒にいることを選んだのに?」


優しい口調でそう言った柚希の言葉に、和那はハッとした表情になる。


「それは・・・。」


「とにかくさ。とりあえず、まずは湊に自分の正体、明かしたらどう?」


「えっ?」


「それがひとつのきっかけになると思うんだけど?」


「今更、無理だよ。それこそ、どういうきっかけで話したらいいの?何で、今まで言わなかったんだって言われたら、私返事出来ないよ。」


「ナミ・・・。」


ここで会話が途切れる。いつまでも煮え切らない和那を、しばらく見ていた柚希は、やがて


「失敗した。」


とため息交じりに言った。


「こんなことなら、この間、悠真のこと止めないで、あんたの会社に突撃させればよかった・・・。」


「どういうこと?」


「まさか、ナミがここまでヘタレな女だとは思わなかった。」


「柚希・・・。」


あまりの言われようだが、反論の余地もなく、俯く和那に


「ナミがこのままでいい、このままで仕方ないって言うんなら、もう私にもどうにも出来ないし、何も言えないよ。」


「・・・。」


(あとは、湊に期待するしかない・・・。)


柚希は祈るような気持ちで思っていた。
< 101 / 125 >

この作品をシェア

pagetop