元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
何度、怒られただろう。厳しい言葉を投げかけられ、心が折れそうになったこともある。「あなたが苦手だ、付いていけない」そんな言葉を投げつけてしまったこともあった。でも、和那は絶対に自分を見捨てずに、上司として寄り添うことを止めようとはしなかった。


そして、フェス案件が明らかに、ふたりの距離を縮めた。ふたりだけの力で成功させたなんて、自惚れるつもりはないが、でもふたりが力を合わせなければ、絶対に成し遂げられなかっただろう。


あの夜、湊は言ってしまった。


『ビジネスの世界で、天下取れねぇかなって。』


我ながらとんでもないことを言ってしまったとは思うが、でもそれを和那に言うことで、湊は退路を断ったつもりだった。いや、それだけではない。


『だから、南澤さん。俺はここにいます。』
『一緒に・・・居させて下さい。』


あなたと一緒に天下を取りたいんだ、だから一緒にいたい・・・そんな思いだった。そして、この時の言葉が、単なるビジネス的な意味だけではなかったということを、湊は今やはっきりと自覚していた。しかし


(おいおい、そりゃ無理だろう。相手は上司だぜ・・・。)


そんなシビアな言葉を投げかけて来る、もうひとりの自分がいる。だから動けなかった。でも・・・


(また逃げることを選ぶのか?俺は・・・。)


そう反論し


(今一番、俺の頭から離れないのは、音楽でもなく、仕事でもない。南澤和那じゃないか。)


そう認める自分の方が、どうやら自分の中で優勢になりつつあるのは、もはや間違いなかった。


「よし、明日だ・・・。」


湊は、自分に言い聞かせるように呟いていた。
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