元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
平静を装う彼女の横で


「俺、自分でも笑っちゃうんですけど。」


湊は苦笑いしている。


「ついこの間まで、仕事のことで頭がいっぱいだった俺が、こんなふうに、一人のひとのことばかり考えてるなんて。」


「・・・。」


「最初は、気のせいだと思いました。だからそのうち、忘れるって。でも・・・」


ここで、湊は夜景へ向けたままだった視線を、ゆっくりと和那へ向けると


「無理でした。」


そう言って、1つため息をついた。
 

「だから、考えないようにするのは、やめました。」


「どうして?」


和那は思わず尋ねる。


「また逃げることになるからです。」


答えた湊は、少しだけ笑う。


「音楽から逃げた時も、自分の気持ちから目を逸らした時も、結局、何も変わらなかった。だから・・・今回は逃げたくないんです。」


その言葉は、自分自身に言い聞かせているようでもあった。和那は静かに彼を見つめる。目の前にいるのは、もう以前の朝比奈湊ではない。逃げることしかしようとしなかった男ではなく、自分の弱さと向き合おうとしている一人の男だった。


「だから今日は。」


湊は真っ直ぐ和那を見る。


「一つだけ、聞かせてください。」


「何を?」


やや緊張した声で、和那が答えると、湊はゆっくりと言葉を選びながら口を開いた。


「どうして・・・どうして、あそこまで俺を信じられたんですか?」


「えっ?」
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