元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
社員たちのひそひそ話は、当然和那にも届いている。が、湊にチラッと視線を送り


「12時には出なきゃいけないから、それまでにお昼、済ませておいてね。」


何事もなかったかのように言うと、彼女はパソコンのモニタ-に目を落とした。声のした方を見ることもなく、言い訳をすることもない。社内の視線など、まるで気にしていないようだった。


(彼と一緒にいたいからだけど、それが何か?)


もちろん、そんな理由を口にすることもない。心の中でだけ、小さく笑う。


やがて、営業車に乗り込み、二人はクライアントのもとへ向かう。移動中は、仕事の話しかしない。


「今日の提案ですが、先方はコスト面を気にされています。」


「うん。」


「だから、価格よりも導入後の効果をイメージしてもらえる資料を前半に持ってきた方がいいと思います。」


和那は少しだけ目を丸くした。


「いいね、その順番でいこう。」


和那が頷くと 湊は少し照れくさそうに笑う。そんな何気ないやり取りが、以前より自然になっていた。


(湊だって、着実に成長してるんだから。)


私情がないとは言わない。でも、それも含めて今、仕事をする上で、一番やりやすいアシスタントが朝比奈湊。和那はそう思っている。
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