元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
定刻ぴったりに始まった打ち合わせは予定より長引いた、先方の担当者が最後まで判断に迷っていたからだ。


「う~ん・・・。」


腕を組み、資料を見つめる担当者。和那も無理に結論を急がせようとはしない。


その時だった。


「あの。」


湊が静かに口を開き、二人の視線が集まる。


「一つだけ、お聞きしてもいいですか。」


「はい。」


「今回のプロジェクトで、一番実現したいことは何でしょう。」


 担当者は一瞬きょとんとした。が、次の瞬間、ふっと表情が緩む。


「そうなんです、実はそこがひっかかってたんですよ。」


そこから空気が変わった。本当に求めていたもの、会社として伝えたかった想い・・・担当者は堰を切ったように話し始める。


和那は静かにその様子を見ながら


(湊、ちゃんと、相手の思いも汲み取れるようになったんだね・・・。)


心の中で微笑んだ。


打ち合わせを終え、二人はクライアント先のビルを後にした。エレベーターを降りると、湊はようやく大きく息を吐く。


「緊張した・・・。」


「お疲れ様。」


思わず漏れた本音に、和那が小さく笑う。


二人は並んで歩き始めた。打ち合わせがうまく行き、彼らの心は軽い。


「でも。」


和那がふと立ち止まる。


「朝比奈さん。」


「はい?」


「あの質問、すごく良かった。」


「えっ・・・。」


湊が驚いたように、彼女を見る。


「先方は、企画そのものじゃなくて、自分たちの想いを分かってほしかった。そこを引き出せたのは大きい。私一人だったら、あそこまで話を広げられなかったかもしれない。」


笑顔の和那に


「そんな・・・たまたまです。」


湊は照れたように首を振る。


「ううん、たまたまじゃない。」


和那はきっぱりと言った。


「朝比奈さんだから、出来た質問。」


「そう、でしょうか・・・?」


「うん。」


その力強く頷く和那の仕草が、湊の胸に静かに残った。
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