元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
翌日。


前日に遅くまで二人で詰めた企画書を手に、和那と湊は東都食品を訪れた。


プレゼンは予定どおり始まった。


和那が話し、湊が資料を切り替える。途中、担当者から質問が飛ぶ。その内容を聞いた瞬間、湊は何も言われる前に追加資料を取り出し、そっと和那の前へ置いた。和那は視線だけで小さく頷く。


「では、ご説明させていただきます。」


スム-ズな流れだった。特別なことなんて、何も起きない。前日のように、湊が助け舟を出すような場面も訪れることもない。プレゼンは滑らかに進んでいった。


全てが終わると、相手の担当者が資料を閉じ、和那を見た。


「今回も分かりやすかったです、お返事は近日中に差し上げますので、お待ち下さい。」


「かしこまりました、本日はありがとうございました。」


和那が頭を下げ、その横で湊も深々と頭を下げる。そんな二人を交互に見ながら


「アシスタントの方は、今日初めてお目にかかりましたが、南澤さんと本当に息が合っていますね。」


担当者がそう言って、笑顔を浮かべる。


その言葉を聞いた二人は、一瞬だけ顔を見合わせ、ハッとしたように目を逸らした湊が


「ありがとうございます。」


照れ隠しのように頭を下げると

 
「朝比奈が先回りして動いてくれるので、私も安心してお話しできるんです。」


その横で和那も静かに微笑んだ。その言葉に、湊は思わず和那を見るが、彼女は何事もなかったように担当者と次回の日程を確認している。


(安心して・・・。)


その一言だけで十分だった。
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