元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
夕方。


営業部にも帰り支度を始める社員が増えていく。見れば、湊もパソコンを閉じ、鞄を持った。

 
(ええ!)


さすがに和那が声を掛けようとした時だ。


「南澤くん。」


お邪魔虫の声がする。思わず、睨みそうになって、慌てて笑顔を作って


「部長、なんでしょうか?」


と応対している横を


「お先に失礼します。」


いつも通り頭を下げ、湊はそのままオフィスを出て行った。


その後ろ姿を見送りながら、和那は小さく息をつく。


(帰っちゃった、ホントに・・・)


さすがに今日は期待していた。


(何よ、昨日あんなこと言っておいて・・・。)


仕事が忙しかった、それは分かっている。でも


(人をさんざん期待させてさ・・・。)


思わずため息が出、続いて苦笑いが浮かぶ。そんな心境でも、部長の相手をつつがなく出来る自分を褒めてやりたかった。その後、更に


「南澤さん、この資料なんですが。」


と近寄ってきた部下に


「うん、見せて。」


笑顔で応えて、確認を終え、時計を見る。オフィスには、もうほとんど人影がなかった。


和那もパソコンの電源を落とし、鞄を肩に掛ける。


「お疲れさまでした。」


周囲に軽く頭を下げ、会社を出た。


夜風が頬を撫でる。フッと息を1つ吐き、和那が駅に向かって歩き出そうとした、その時だった。


「あの。」


聞き慣れた声、思わず振り返る。
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