元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
その時


「湊!」


誰かが、俺に飛びついて来た。柔らかな身体の感触、香しい匂い・・・明らかに女子だった。お陰様で、俺も当時、女子からキャ-と言われたことはあるくらいの人気はあったが、ステ-ジから降りた途端、女子に抱き着かれた経験はなかった。


(だ、誰だよ・・・?)


俺はさすがに戸惑いながら、その女子に視線を向けた。


「湊~、あんた最高だよ!」


「えっ・・・ナミちゃん?」


他大学のバンド『Lumiere』キーボ-ド担当のナミだった。彼女のバンドのリーダ-とは、同じベ-シストとして親しくしていたから、彼女ともライブなどで顔を合わせれば、挨拶や雑談を交わしたことはあったが、ナミという名前は知っていても、苗字は知らないくらいの関係だったし、ましてこんな大胆なことをしてくるような子とは思ってなかったから、正直戸惑っていると


「終わっちゃダメだよ!音楽。湊なら、もっと先に行ける、ううん、行くべきだよ!」


ナミはそんなことを、俺の目を真っすぐに見て言った。そんな彼女に、正直ドキッとしたのは事実だが


「ありがとう。でも俺、やり切ったから。」


そう言って、俺はそっと彼女の身体を離した。するとすぐに彼女を押しのけるように、周りに何人もの連中が押し寄せて来て、ナミとはそれっきりになってしまった。


その後、俺はいろんな奴と語らい、握手を交わし、抱き合い、そしてそのまま打ち上げの席になだれ込んで、大騒ぎして・・・気が付けば、自宅のベッドの中だった。


(俺、どうやって帰って来たんだ・・・?)


思い出せることも、思い出せないこともあったが、やがて俺は1つの記憶に辿り着いた。


(ナミ・・・。)


俺は思わずベッドから跳ね起きた。彼女の身体の感触、香り、そして真っすぐに俺を見つめたつぶらな瞳がまざまざと甦って来る。


『終わっちゃダメだよ!音楽。湊なら、もっと先に行ける、ううん、行くべきだよ!』


彼女の言葉が、俺の中でリフレインされる。だけど・・・


(無理だろ、そんなの・・・。)


そうナミに答えて、俺はまたベッドに潜り込んだ。
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