元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
客席に10人しかいない日もあった、いや3人だったこともあったな。それでも演奏した、次は増えると思っていたから。そして実際、少しずつ増えた。常連がついた。CDが売れた。SNSのフォロワーも増えた。嬉しかった、本当に。俺たちは着実に前に進んでいる、そう思えた時期だった。


だけど・・・数字というものは残酷だった。動員数、物販、チケット販売枚数、配信再生数・・・全てが伸び悩んでいく。俺たちは当然、その対策に追われることになる。いい音楽を作れば、いいライブをしていれば、自然と支持は付いてくる。そんな、俺の信念は甘かったのだ。
 

気づけば会話の中に数字が増えていた、でもそれは仕方のないこと。プロになるというのは、そういうことだから。誰も悪くなかった、事務所も、スタッフも、そして俺たちメンバーも。みんな必死だった。だけどある日、気が付いた。


「俺たち、最近楽曲の話、全然してなくない?」


誰も返事ができなかった、たぶん全員気づいていたからだ。好きだから始めたはずなのに、続けることが目的になっていた。売れることが目的になっていた。辞めないことが目的になっていた。


とうとう俺たちの活動のメインはSNSになっていた。そうならざるを得なくなったのだ。新曲を作り、SNSにアップする。コメントが付くには付く、でも数は決して多くないし


『ベースはいいんだから、そっちに専念して、ボーカル探した方がいいんじゃないの?』


内容は辛辣そのものだった。そして、終焉がやって来た。まず、スタッフが離れて行った。やがて、事務所を解雇され、それでもSNSの配信に最後の望みを託して続けていたが、メンバ-がひとり、またひとりと去って行き、とうとう文字通り、たったひとりになった。
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