元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
数秒、和那を見た湊は


「努力します。」


そう言って、フッと笑うとステージへ向かって、ゆっくりと歩み出した。ステージ袖は薄暗かった。だが、その向こうは違う。照明、人のざわめきと歓声、そして熱気。全部が押し寄せてくる。


湊はステージへ続く階段の前で立ち止まった。心臓がうるさい、情けないほどに、鼓動が速い。


「湊、大丈夫か?」


前を歩いていた神崎が、振り向くことなく、声を掛けて来た。湊は思わず苦笑いして


「後ろ、見て下さい。」


その言葉に、振り返った神崎はひとこと


「なるほど。」


そう言って笑った。


「でも、安心した。」


「蓮さん?」


「緊張出来るなら大丈夫ってことだ。」


そう言うと、湊の肩を1つポンと叩き、神崎は先にステージへ上がって行った。


歓声が大きくなる、名前を呼ぶ声、拍手、指笛。フェス特有の熱気だった。


湊の足が思わず止まる。右手を見る、少し震えている。いつもそうだった、大学時代も、そしてプロになってからも、ライブ前になると手が震えた。慣れることなんて、一度もなかった。


「本当に戻って来ちまったんだな・・・。」


思わず独りごちた時、客席から歓声が爆発する。神崎がマイクを握ったのだろう。その瞬間、不思議と胸の奥が静かになった。逃げ続けて来た、見ないふりをした、思い出さないようにした。でも・・・結局、自分の中から、音楽は消えていなかったのだ。
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