元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
湊はゆっくり息を吐く。そして、階段を上った。光が差し込む。眩しい、あまりにも眩しい。


そして、ステージへ足を踏み入れた瞬間、歓声が耳へ飛び込んできた。でも、その歓声は自分へ向けられたものではない、『STILL BLUE』というバンドへ向けられた歓声だ。そう思うと不思議と気が楽になった。


神崎が振り返る。目が合う、ニヤリと笑う。そして、客席へ向かって叫んだ。


「じゃあ行くぞ!」


歓声と拍手が沸き起こり


「ワン、ツー、スリー、フォー。」


ドラムのカウントが始まる。その瞬間、身体が勝手に動いた。左手が指板を押さえる、右手が弦を弾く。低音が鳴る。会場の空気が震える、たった一音だった。なのに・・・胸の奥で何かが弾けた。


(思い出した、全部・・・。)


歓声が好きだった、ステージが好きだった、仲間と音を重ねるのが好きだった。そして・・・


(何より俺は、音楽が好きだった。ずっと、本当はずっと・・・。)


そう気づいた瞬間、客席も、照明も、音楽を遠ざけようとして、もがき続けた時間も、全部消えた。そこにあるのはただ音だけだった。
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