元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
ドラムが走る、ギターが叫ぶ、神崎が歌い、そして、湊のベースが、夜空へ向かって力強く鳴り響いていた。


そして、いよいよ最後の曲になった。


神崎がマイクスタンドを握る、照明が落ちる、客席がざわめく。イントロが始まった。


『STILL BLUE』の代表曲。神崎が学生時代に作り、俺の原点と称して憚らない、ライブの最後を飾る定番の一曲。湊も当然知っていた。歓声が上がる。観客の何人もが、イントロだけで曲名を叫んでいた。それだけ愛されている曲なのだろう。


湊はベースを構える、指が動く、自然に、もうそれが当たり前になっていた。数十分前まで震えていたのが嘘みたいだった。


神崎が歌う、客席も歌う。会場全体が一つになる。その光景を見た瞬間、湊は不意に思い出した。


大学時代の『Riot Beat』のライブ。今日とは比べ物にならないくらいに、狭いライブハウスで、遥かに少ない観客の前で、自分たちは必死になって歌っていた。


汗だくになっていた仲間、笑いながらギターを弾いていた仲間、そして自分はベースを抱えて、マイクに向かってシャウトしていた。あの頃は売れるとか、プロになるとか、そんなことは考えてもいなかった。


ただ楽しかった、ただ音楽が好きだった、ただそれだけだった。そんな思いが、胸の中に熱くこみあげて来る。


神崎が客席へマイクを向ける、大勢の歌声が、夜空へ響く。湊は思わず笑顔になる。

 
(俺は、こんな景色に憧れてたんだ・・・。)


神崎が振り返る、彼と目が合う。


(そうか。先輩もここまで来るのに、きっと色んなものを失ったんだろうな。俺と同じように悩んで、迷って、でも続けてきたんだろう。強い、人だ・・・。)


正直、羨ましかった。
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