元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
最後のサビ、照明が一斉に客席を照らす。歓声、拍手、歌声、自分たちが奏でる音、全部が混ざり合う。そして、ついに終わりの時が来た。最後のコード、最後の一音、最後の余韻、曲が終わった。


一瞬の静寂、だがその次の瞬間だった。爆発みたいな拍手が起こった。歓声、指笛、叫び声、会場全体が揺れる。


神崎が笑う、メンバーが観客席に手を振る。そんな中、湊は立ち尽くしていた。ただ、その光景を見ていた。胸が熱い、苦しいくらいに。でも、その感覚が嫌じゃなかった。そして、気づけば視界が滲んでいた。


ステ-ジを降り、神崎が肩を叩く。


「終わったな。」


「そうですね。」


湊は小さく頷く。


「どうだった?」


湊は少し考えた、そして笑った。


「楽しかったです。」


「そうか。なら、よかった。」


神崎も満足そうに笑った。


「で、聞こえてたか?」


「えっ?」


「観客の声援の中に『おかえり』って、声が混ざっていた。」


「おかえり、ですか・・・?」


「俺は今日、あえてベースがいつもと違うことも、その事情も説明しなかった。だが、俺たちのファンは、当然メンバ-が違うことに気付いた。そしてその中の何人かが、そのベーシストが誰なのか気付いたんだ。」

 
神崎は言った。


(そんな・・・。)


信じられない、という表情を浮かべる湊に


「お前を、ベーシスト朝比奈湊が帰って来るのを待っていた人は、確かにいたんだよ。そしてたぶん、あの人もそのひとりだ。」


そう言って、神崎が視線を送った先には・・・遠ざかって行く和那の後ろ姿があった。


「南澤さん・・・。」


湊の視線を、背中に受けていることなど知る由もなく


(これで湊はやっと、自分の居場所に、自分のいるべき場所に戻ることが出来る。よかった、本当によかった・・・。)


和那は笑顔を浮かべながら、持ち場に戻ろうと足早に歩いていた。でも、その瞳が少しだけ潤んでいることには気づかないふりをしていた。
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