元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
「あのさ。」


気づけば、口を開いていた。


「なんで。」


「えっ?」


「なんでいるの?」


「は?」


「だから何で今日、ここに来てるの?」


厳しい口調で尋ねて来る上司を、一瞬呆気に取られたように見た湊は


「いや、普通に出勤日だから、ですが・・・。」


戸惑いを隠せないままの表情で答えた。


(えっ・・・。)


湊の答えに、虚を突かれたような形になって、和那は言葉を失う。そんな彼女を、湊もキョトンとしながら見つめ、場は何とも言えない空気に包まれ、沈黙が流れる。やがて、その沈黙に耐えかねたように


「ひょっとしたら・・・。」


湊が切り出した。


「昨日頑張ったから、ご褒美に有休取ってよかったんですか?だったら、昨日のうちにそう言って下さい。俺も急にあんなことになったんで、さすがに疲れましたから、助かったのに。」


「う、うん。そうだったね・・・ごめん。じゃ、じゃぁ、今からでも帰る?」


全く予期せぬ展開になり、内心の動揺を隠そうと、取り敢えず話を合わせるようと和那が言うと


「いえ、せっかく出て来ちゃいましたから、今日は結構です。」


湊は首を振る。


「そ、そう・・・。じゃ、この資料は目を通しておくからさ。また、後で声掛けるよ。」


「わかりました。よろしくお願いします。」


頭を下げて、部屋を出て行く湊の後ろ姿を、和那はやや呆然としながら見送った。


(私、なに考えてたんだろう・・・。)


和那はようやく気付いていた。湊はもうここに戻って来ない、そう思い込んでいた自分の方がおかしかったのだと。
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