元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
「南澤さんが、俺たちの卒コンの現場にいたかどうかはわからないけど、『Riot Beat』はあの日のトリだった。緊張したけど、光栄だったし、嬉しかった。だから、悔いのないように、最高の舞台を、そう思って、そしてやり切った。もうこれで思い残すことはない、そう思いながら、俺は舞台を降りた。」


「・・・。」


「そしたら、ひとりの女性が俺を出迎えて、言ってくれたんです。」


和那の心臓が跳ねる。でも顔には出さない、出せない。


「どんなこと?」


できるだけ平静を装って尋ねる。


『終わっちゃダメだよ!音楽。湊なら、もっと先に行ける、ううん、行くべきだよ!』って、ね。」


 湊は少し笑った。


「・・・。」


「正直、その子とはせいぜい顔見知り程度の関係だったから、そんなこといきなり言われてビックリしましたよ。で、その時は、『ありがとう。でも俺、やり切ったから。』なんて、カッコつけて答えて、彼女とはそれっきりになったんだけど、でもそれから、その彼女の言葉が頭から離れなくなって・・・結局、就職蹴って、プロに転向しちまったんですよ。」


(じゃ、あの時の私が勢いで言っちゃった言葉が、湊の背中を押してしまったってこと・・・?)


思いもよらなかった真実が明らかになり、和那は内心、愕然となる。そんな彼女の内心の動揺に気付くこともなく


「それで7年くらい、頑張ってはみたものの、芽が出なくて、刀折れ矢尽きたって感じで音楽を辞めた。まぁはっきり言えば、音楽から逃げ出したわけです。」


湊は淡々と言葉を紡ぐ。


「・・・。」


「そんな奴が、何の因果か、転職先で音楽フェスに関わる羽目になり、それどころか、当日いきなりステージに立って演奏させられるって、何の罰ゲームなのかと思いましたよ。」


そう言って、苦笑いを浮かべた湊に、でも和那は掛ける言葉も浮かばない。
< 93 / 125 >

この作品をシェア

pagetop