元プロバンドマンの部下は、私に気づかない~まさかの再会オフィスラブ~
「南澤さん。俺が大学で音楽を辞めることにしたのは、自分が目指してることは、プロでは実現できないだろうなって思ったからなんです。俺は『歌を歌えるベーシスト』じゃなくて、『ベ-スも弾けるボ-カリスト』になりたかった。でも自分のボーカルじゃプロでは通用しない。そう思ったから、真面目に就活して、バンドは大学まで、そう決めたんです。でも・・・たぶん、俺、誰かに言って欲しかったんですよ。」


「えっ?」


「行けるって、やってみろって、お前なら大丈夫だって。その言葉を彼女がくれた。だから、決められた。俺は彼女が言ったからプロになったんじゃない。彼女が言ってくれたから、自分で決められたんです。だから・・・結果がダメだったからって、それは彼女のせいじゃない。絶対に。」


そう言った湊の声は静かな、でも、今までで一番、強い声だった。


「だから彼女には、ナミには・・・感謝しかないです。」


湊は微笑んで見せた。


(ナミ・・・。)


彼の口から出たその名前に、和那は胸をつかれ、その目が思わず熱くなる。潤んでしまったその瞳を、湊に見られたくなくて、慌てて下を向いた彼女の耳に


「ということで、話を一番最初に戻しましょうか。」


そんな湊の言葉が入って来る。


「あの日、あの時間。正直楽しかった、音楽って、やっぱりいいな、そう思いました。弾き終わって、会場を見渡すと、大勢の観客が、もちろん俺に対してだけじゃないけど、凄い声援と拍手を送ってくれて・・・嬉しかったです。そして、思いました。『これでちゃんと終われた』って。」


「終われた?」


「俺は音楽が楽しいってことを、思い出せたんです。そして、自分がやっぱり音楽が好きだってことも。だったら、もうそれで充分でしょう?またわざわざ嫌いになりに、プロの世界に戻る理由なんてない。」


「朝比奈さん・・・」


「それに・・・。」


ここで一瞬躊躇ったように、言葉を切った湊は、すぐに意を決したように


「俺、新たにやりたいことが出来たんで。」


和那の顔を見つめるように言った。
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