《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene9「ふたりの言葉」

 放課後の音楽室に、やわらかな夕焼けが差し込んでいた。
 窓の外、校庭にはもう誰の姿もない。
 静まり返った空間のなかで、麻里奈はノートの上でペン先をじっと見つめていた。

 ピアノの上には、大和が作った楽譜。
 少し切なくて、でも最後に温かさが残るような旋律。
 その音に合う“言葉”を探しているのに、どうしても出てこない。

「……なんか、“歌詞書こう”って思うと急に出てこなくなるね」

 照れ隠しの笑みを浮かべ、ページをめくる。
 大和はペンをくるくる回しながら、窓の外をぼんやり眺めていた。

「まぁ、そんな簡単に出るもんでもないし」

「でもさ、大和くんのメロディ、すごくきれいだよ。
 ちょっと切ないのに、どこか希望がある感じ」

 大和はちらりと視線を向け、小さく肩をすくめる。

「……それ、ほめてる?」

「もちろん。本気で、すごいって思ったよ」

 麻里奈の笑顔に、大和は照れたように目をそらした。

「……なら、よかった」

 その言い方が少し不器用で、麻里奈は自然と口元をゆるめる。

「ねぇ、大和くんは、どんな歌詞がいいと思ってる?」

 夕陽が傾き、ピアノの影が長く伸びていく。
 少しの沈黙のあと、大和は静かに答えた。

「……んー、強がってるけど、本当は誰かに気づいてほしい……みたいな」

「それって……」

 麻里奈は考えてから、くすっと笑う。

「まるで大和くんみたいだね」

「は?」

「だって、いつもクールぶってるのに、やたら人のこと気にしてるし。
 そういうとこ、ちょっと優しいなって思う」

「……それ、褒めてる?」

「もちろん」

 からかうような笑みに、大和は小さくため息をつき――そして言った。

「……じゃあ、俺が書く。歌詞」

 麻里奈は目を丸くする。

「えっ、本当に?」

 大和は視線を伏せ、ペンを握りしめた。

「お前が言ったんだろ。俺っぽいって。
 ……じゃあ、俺の思ってること、書いてみる」

 ぱっと麻里奈の顔が明るくなる。

「うん、読んでみたい。大和くんの歌詞」

 無邪気な笑顔に、大和はわずかに耳を赤くして、そっぽを向いた。

「……書けたとしても、あんま期待すんなよ」

「してないって言ったらウソになるけど……すっごく楽しみにしてる」

 その言葉に、大和の手が少し強く動いた。
 ペン先がノートの端をそっとなぞる。
 そこにはまだ何も書かれていないけれど――確かに“何か”が生まれようとしていた。

 窓の外で、夕焼けが深くなる。
 ふたりの前に広がる真っ白なページ。
 それは、これからふたりが紡ぐ“言葉”の始まりだった。

 
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