《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene8 「音の距離、心の距離」

 音楽室のドアが閉まると、外のざわめきがすうっと遠のいた。
 夕方の光がピアノの表面に反射して、きらきらと揺れている。
 静かな空気の中で、ふたりだけの時間が始まった。

「練習、ここならバレないと思ってさ。音楽部の子に頼んで鍵、借りといた」

 どこか得意げに言う麻里奈に、大和は小さく笑う。

「……抜け目ないな」

 部屋の中央には電子ピアノ。
 隣にはギターと譜面、飲みかけのペットボトル――
 まるで“ふたりの秘密基地”のようだった。

「じゃ、歌ってみる? とりあえずサビだけ」

 麻里奈が譜面をめくったところで、大和が静かに言う。

「先に歌って」

「え、私から? なんか緊張するんだけど……」

 照れながらマイクを持ち、深呼吸。
 スイッチを入れると、小さなノイズが走った。
 そして――麻里奈はサビのフレーズをそっと歌い始めた。

 優しい声。少しかすれた語尾。
 思っていたより、ずっと、心を揺らす歌声だった。

 歌い終わったあと、しばらく静寂が落ちる。
 大和がぽつりとつぶやいた。

「……歌うとき、顔少し上向くんだな」

「えっ、見てた?」

「まぁ。……思ったより、良かった」

「“思ったより”って何それ。素直に褒めなさいよ」

 ふくれながらも笑う麻里奈。
 その笑顔に、大和はわずかに視線をそらした。

「じゃ、次は大和くんの番ね」

「……仕方ないな」

 ギターを構えた大和が、静かに弦を弾く。
 シンプルなコードが響き、低めの声が音に乗った。

 少し不器用で、でもまっすぐで――
 その声には、言葉より強い“気持ち”が宿っていた。

 麻里奈は、気づけば見とれていた。
 目を閉じて歌う横顔が、どこか遠くにいるようで、
 でも確かに、すぐ隣にいた。

 歌い終わったあと、大和がこちらを見て言う。

「……どうだった?」

「……ずるい」

「は?」

「かっこよすぎて。ずるい」

 からかうように言うと、大和は耳まで赤くし、そっぽを向いた。

 ――このユニット、もしかしたら、すごくいいかもしれない。

 麻里奈は、心の中でそっとつぶやいた。
 音の距離が、少しずつ心の距離を縮めていくように。

 
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