《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene10「言葉にならない想い」

 その夜、大和は机に向かっていた。
 ノートを開いたまま、ボールペンを手にしたまま、ずっと動けずにいる。
 蛍光灯の淡い光だけが、白い紙の上で静かに揺れていた。

(強がってるけど、本当は気づいてほしい――か)

 ぽつりと、昼間に自分が言った言葉を思い出す。
 麻里奈には笑われたけれど、あれは本気だった。

 ずっと誰にも言えなかった想い。
 家でも、学校でも、ステージの上でも。
 “ちゃんとした自分”を演じるのは得意だ。もう、慣れきってさえいる。

 けれど――
 本当の声だけは、ずっと心の奥に閉じ込めたままだった。

 だけど。

(麻里奈さんとなら……言葉にしてもいいかもしれない)

 ふと、そんな気がした。
 はじめて、“誰かに伝えたい”と思った。

 「……誰かに、届いてほしい」

 小さくつぶやいて、大和はそっとペンを走らせる。
 まず浮かんできたのは、単語の羅列だった。

 “静けさ”
 “まなざし”
 “孤独”
 “朝焼け”
 “声”
 “優しさ”
 “気づいてほしい”

 バラバラな言葉たち。
 だけど一つだけ、確かなことがあった。

 ――“麻里奈”の名前を思い浮かべるたび、自然と手が動き始める。

 あの夕暮れの音楽室。
 ふと向けてくれた笑顔。
 「楽しみにしてる」と真っすぐ言ってくれた声。

 その全部が、大和の中で“歌”になっていく。

(これが……俺の歌)

 やがて夜が更けたころ。
 ノートの端に、一行だけ、丁寧に書かれたフレーズが残った。

> ――届かないと思っていた声が、君にだけは届く気がした。



 その言葉を見つめ、大和はそっと目を閉じた。
 眠れないままの夜。
 それでも胸の奥が、静かにあたたかかった。

 
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