《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene11「渡せないページ」

 次の日の放課後。
 ふたりは、いつものように音楽室にいた。

 麻里奈がピアノの前でコードを軽く鳴らし、
 大和はギターケースを開いたまま、所在なげに楽譜をいじっている。

 カバンの奥には、昨夜必死に書き上げた歌詞ノート。
 けれど朝からずっと――渡せずにいた。

 「ねぇ、昨日さ。あのメロディに合いそうな言葉、思いついた?」

 麻里奈の何気ない一言に、大和の指がぴたりと止まった。

 「……うん、一応。書いてみたけど」

 「ほんと!? 見せてよ!」

 ぱっと顔を輝かせる麻里奈。
 その笑顔に、大和はほんの一瞬視線を伏せて――ゆっくり首を横に振った。

 「……まだ、ダメ」

 「え?」

 「なんか……恥ずかしい。上手くないし。
 もうちょっと、ちゃんと書きたい」

 どこか言い訳みたいな声。
 でも、その響きはまっすぐで、不器用なほど素直だった。

 麻里奈は少し驚いた顔をしたあと、ふわっと微笑む。

 「そっか……うん、いいよ。
 大和くんが“これだ”って思えるまで待ってる」

 その何気ない言葉が、驚くほど優しく胸に落ちる。
 責めるでも、急かすでもなく――ただ信じてくれる。

 大和は思わず視線をそらした。

 「……ごめん。期待させといて」

 「期待してるよ? でもね、急かしてるわけじゃないの。
 “大和くんのペース”でいいと思う。
 だって――私たちの歌なんだから」

 “信じられている”って、こんなにあたたかいんだ。

 胸の奥がきゅっと熱くなって、言葉が続かなかった。

 そのあと、ふたりはいつものようにピアノを囲み、
 コードを合わせ、鼻歌でメロディを確かめ合う。

 けれど、大和のカバンの中の歌詞ノートは――
 その日も、最後まで開かれることはなかった。

 ――それでも。

 ノートのページの中で、言葉たちは静かに息をしていた。
 麻里奈に届くその日を、ただ、待ちながら。

 
< 12 / 48 >

この作品をシェア

pagetop