《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene12「見つけた言葉、隠した気持ち」

 その日も、ふたりは放課後の音楽室にいた。

 ギターを調整する大和と、ピアノのコードを確かめる麻里奈。
 窓の外の夕陽が、静かに鍵盤を照らしている。

「ちょっと、飲み物買ってくる」

 そう言って大和が部屋を出ると、音楽室に静けさが戻った。

 ふと目を向けると、大和のカバンが机の上に置きっぱなしになっている。
 その口から、少しだけノートの端が覗いていた。

(……これって)

 あの日、「まだダメ」と言って隠したままの歌詞ノート。
 麻里奈は、胸の奥がそわそわと揺れるのを感じながら手を伸ばした。

「……ごめん。ちょっとだけ」

 自分に言い訳するように呟き、そっとページをめくる。

 そこには、走り書きのような言葉が散らばっていた。

 ――届かないと思っていた声が、君にだけは届く気がした。

 その一行を見た瞬間、息がふっと止まった。
 胸の奥を、やわらかい衝撃が満たしていく。

 “気づいてほしい”“笑ってほしい”“君の声で救われた”
 不器用でひたむきな文字の並び。
 その全部が、大和の心そのものみたいで――苦しいほどあたたかかった。

「……えっ、ちょ、待って、それ!」

 突然、背後から声が落ちた。
 振り向くと、大和が顔を真っ赤にして立っていた。

「あっ……ご、ごめん! 勝手に見るつもりじゃなくて……!」

「マジでやめろ、それ今のなし! 忘れて!」

 大和が慌ててノートを取り返そうとする。
 同時に拾おうとして、指先がふれた。

 ――その一瞬、時間が止まった。

 触れた指先の熱が、まるでそのまま胸に落ちてくるみたいで、
 ふたりとも動くことができなかった。

「……」

「……」

 沈黙の中、大和がかすれた声をこぼす。

「それ……麻里奈さんのことじゃないって言ったら、ウソになる」

 麻里奈は息を呑み、視線をそらすこともできなかった。

「……でも、歌だから。歌詞として……
 ただの言葉で……」

 不安で、逃げ腰で。
 それでも必死に伝えようとしている声。

 麻里奈は、ふっと笑った。

「……大和くんらしいね」

「え?」

「“ただの言葉”って言いながら、すごく伝わったよ。
 あったかかった。……ほんとに」

 その一言に、大和の肩の力がふっと抜けた。

「……読まれた時点で、負けた気しかしない」

「うん。完敗だね」

 ふたりは目を合わせて、同時に笑う。

 床に落ちたノートを拾いながら、大和はページを麻里奈に向けた。

「……一緒に完成させよ。最後まで」

「うん」

 迷いなくうなずく麻里奈の声が、夕陽よりやさしく響いた。

 傾いた光が音楽室を金色に染める中で、
 ふたりの距離は、歌詞より先にそっと近づいていった。

 
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