《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene15「音に、心を乗せて」

 放課後の音楽室。
 机の上に広げられたノートには、ふたりの文字が寄り添うように並んでいた。

 大和が書いた最初の歌詞。
 麻里奈が返すように書き加えた言葉。
 そして――ふたりで完成させた最後のサビ。

 君に届くように 僕は歌うよ
 繋いだこの音が 未来を照らすなら
 君となら、きっと



 そのページを見つめるだけで、胸の中がじんわり温かくなる。
 ようやく“ふたりの歌”が形になったのだ。

「……できたね」

 ペンを置いた麻里奈が、ほっとしたように微笑む。
 その表情には達成感と、どこか名残惜しさが混じっていた。

 大和はノートに指先を滑らせ、小さく息をつく。

「不思議だな……俺、歌詞とかほんと向いてないって思ってたのに」

「それ、今日だけで三回は言ってる」

「……うるさい」

 からかう麻里奈に、大和も少しだけ口元をゆるめた。
 音楽室に落ちた静寂は、ふたりにとって心地いいものだった。

 ふいに、大和が立ち上がる。
 ギターのストラップを外しながら、ぽつりとつぶやいた。

「なぁ……この曲、ダンス入れよう」

「えっ?」

 思わず声が跳ねる。
 けれど大和の瞳は、迷いなくまっすぐだった。

「歌うだけでもいい。でも……せっかく文化祭だし、もっと伝わる形にしたい。
 聴いてくれる人に、ちゃんと届けたいんだ」

「それは……わかるけど」

「俺、振り付け考える。
 ……麻里奈さんが、一緒にやってくれるなら」

 その一言に、麻里奈は息をのんだ。

 ――ほんと、素直じゃないのに。
 でも大事なところは、こんなにまっすぐ。

「……やる。私、がんばるよ」

 立ち上がった麻里奈の声は、迷いのない力を帯びていた。

「ダンスは自信ないけど……ふたりで作った歌だから。
 最後まで、ふたりで届けたい」

「……そっか。ありがとな」

 大和は照れくさそうに笑い、軽くうなずいた。

 音楽室のスピーカーから、ふたりのメロディが流れ始める。
 ゆっくりとリズムに合わせて歩むふたりの姿が、夕焼けの光に照らし出される。

 まだ見ぬステージへ――
 音に、心を乗せて。
 ふたりの歌は、今、確かに動き出していた。
 
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