《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene17「君と並んで立つために」

 文化祭の前夜。
 校舎はいつもの喧騒を置き去りにしたまま、夕暮れの風景にゆっくり溶け込んでいた。

 屋上への階段を、大和と麻里奈は並んで登っていく。
 誰もいない屋上は、空が広く開けていて――まるでふたりだけの場所みたいだった。

 麻里奈は手すりに手を添え、茜色の空を見上げる。

「……明日、いよいよだね」

「うん」

 大和の返事は短いけれど、確かな熱があった。
 吹き抜ける風の音に、心臓の鼓動が混じって聞こえる気がする。

「正直ね。最初は、こんなふうになるなんて思ってなかった」

「俺も」

 ふたりは思わず笑い合った。

 最初はただひとりで踊っていただけだった。
 気づけば今は――“ふたりで歌って、踊って、届けよう”としている。

 その間に、いくつの想いを重ねてきただろう。

「明日、ちゃんと歌えるかな……緊張で声出なかったらどうしよう」

 麻里奈の弱音に、大和はそっと隣へ寄る。

「俺が隣にいる。……だから、大丈夫」

 ただの励まし以上の響き。
 その言葉に、胸の奥のざわつきが静かにほぐれていく。

 麻里奈はふと横を見る。
 夕焼けに照らされた大和の横顔は、思っていたよりずっと大人っぽかった。

「……大和くんは、何か伝えたいことある?」

 問いかけに、大和はしばらく黙って空を見つめていた。
 やがて、ゆっくり言葉を紡ぐ。

「俺さ……自分のこと、誰にもちゃんと見てもらえてない気がしてたんだ。
 でも、お前と歌詞書いて、練習して……はじめて“誰かと並んで立てる”って思えた」

 その言葉に、麻里奈の胸がきゅっと鳴る。

「じゃあ、明日それを伝えよう。ふたりで」

 そう言って、そっと手を差し出した。

 大和は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに微笑んでその手を取る。

 風が静かに吹き抜ける。
 重ねた手の温度が、未来へ続くように確かだった。

 夕焼けの屋上で、ふたりはまっすぐ前を見据えた。
 まるで小さく誓い合うように――同じステージに並んで立つ明日を、胸に描きながら。

 
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