《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene2「終わったあと、君とだけ」

 歓声がまだ遠くで響いていた。
 緞帳が下りてからしばらく、ふたりはその場から動けずにいた。

 舞台袖を抜け、薄暗い廊下に出た瞬間、ようやく深く息をつく。

「……終わったね」

 麻里奈が笑うようにつぶやく。
 額には汗がにじみ、肩がまだ小さく上下していた。

「うん。……なんか、夢みたいだった」

 大和も同じように息を整えながら答える。
 体育館の扉が閉まり、ふたりだけの静けさが戻ってきた。

 ふと気づけば、足は自然と音楽室の前まできていた。

「ちょっと、入ってもいい?」

 麻里奈の問いに、大和はうなずく。


---

 誰もいない放課後の音楽室。
 ここはふたりが何度も練習して、ぶつかって、笑って――
 一緒に歌詞を紡ぎ、ダンスを作り上げてきた場所だった。

「ここ、落ち着くよね」

 麻里奈はピアノのベンチに腰かけ、ぽんぽんと隣を叩く。

「座っていいよ」

「……ああ」

 大和も隣に座る。
 ほんの少し肩が触れる距離。
 沈黙が流れても、不思議と心地よかった。

「……あのさ」

 大和が、少し息を飲むように口を開く。

「今日、ほんとにありがとう。
 俺、ひとりだったら……絶対、あんなふうに歌えてなかった」

 麻里奈は思わず顔を向けた。
 真剣で、不器用で、でも素直な大和の声。

「……私もだよ。大和くんとだったから、ここまで来れた」

 視線が絡む。
 まるで歌の続きを、静かに交わしているみたいだった。

「ねえ、大和くん」

 麻里奈は小さく息をのむ。

「私ね、最後……手つないだとき、ちょっと泣きそうだった」

「……俺も。やばかった。マジで」

「ほんと? ……ふふ、同じだね」

 互いに笑うと、距離がまた少し近づいた。

 そのとき、大和がそっとポケットから小さな紙切れを取り出す。
 折りたたまれたノートの切れ端。
 そこには、たった一行のメッセージ。

 「君とだったから、歌になった。」



 麻里奈はそれを読んで、ゆっくりと目を細めた。

「……ずるいよ。こんなの……また泣いちゃうって」

「じゃあ、泣かれないうちに返して」

 大和が照れたように手を差し出す。
 ふたりは肩を寄せあって、また笑った。

 
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