《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene3「月曜、教室の空気」

 月曜の朝。
 いつもと同じ通学路を歩きながら、麻里奈の足はどこか重かった。

 文化祭から一夜明けて――あのステージは、まるで夢みたいだった。
 ライトの下で交わした視線も、サビで触れた手のあたたかさも、
 胸の奥がじんわり熱くなるほど鮮明に残っている。

 でもその光は、どうしてか。
 今はまぶしすぎて、少しだけ目を逸らしたくなる。


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 教室のドアを開けた瞬間――空気が違った。

 ざわざわとした朝の音の中に、妙な“間”がある。
 ちらり、と視線が刺さる。
 笑っている子もいたけれど、その笑みはどこか意地悪に歪んでいた。

「……おはよ、麻里奈ちゃん」

 声をかけてきたクラスメイトも、どこか上ずっている。
 すぐ近くで数人がひそひそと顔を寄せた。

「Twilight Notes、めっちゃ良かったよ〜」
「青春って感じ〜」
「てか、最後の“あれ”さ……手繋いでたよね?」

 わざとらしいトーン。
 麻里奈の席の周りには、ぽっかりと空間が空いていた。
 その真ん中に立つ自分が、急に場違いな存在みたいで胸がざわつく。

「……おはよう」

 精一杯の笑みを作り、席につこうとした――その時。


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「おーい、大和〜!」

 大声が教室のざわめきを揺らした。

 廊下から入ってきたのは、ダンス部の仲間たち。
 その中心で、大和がいつもどおり少し気だるそうに歩いてくる。

「マジ注目の的じゃん!」
「見たぞ、あのステージ! 最後、手、握ってたよな?」
「てか、お前ら付き合ってんの?」

 男子たちの軽いノリが、笑いと一緒に教室内に広がる。

 麻里奈は――そっと目を伏せた。
 耳が熱い。
 自分の存在が“話題”になっているその空気が、苦しくてたまらなかった。

 ――その時。

「……うるせぇよ。関係ねぇだろ」

 低く、でもはっきりとした声。
 教室の空気が、一瞬だけ止まった。

「ステージに立ったのは、俺らがそうしたかったからだ。
 見せたかっただけだ。
 誰かに勝手に茶化されるもんじゃない」

 大和は、自分の席へ向かいながら言った。
 麻里奈を見ることはなかった。
 でもその言葉には、まっすぐな想いが確かにこもっていた。


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 麻里奈は、そっと顔を上げた。

(……大和くん。わかってくれてる……)

 胸の痛みが、ほんの少しだけ静かになる。
 教室のざわめきの中、
 ふたりの間にだけ、風が静かに通り抜けた気がした。

 
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