《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene4「陰の言葉」

 放課後の昇降口。
 オレンジ色の夕日が差し込み、長い影が床をゆっくり伸ばしていた。

 麻里奈は、静かに下駄箱へ向かって歩く。
 文化祭からまだ数日しか経っていないのに――
 学校の空気が、どこか少しだけ冷たくなった気がしていた。

「……あれ? 麻里奈ちゃんじゃん」

 名前を呼ばれ、顔を上げる。
 三人の女子が笑顔で歩み寄ってくる。

 クラスの“中心グループ”。
 華やかで、人付き合いにも慣れていて、誰からも一目置かれている子たちだ。

「ステージ見たよ~。すっごく良かったねぇ」 「ほんとほんと。初舞台とは思えないくらい堂々としてたし?」 「てか、大和くんと“ユニット”って……急に距離縮まりすぎじゃない?」

 軽い調子の言葉。
 でもその“軽さ”の奥に、隠し切れない棘があった。

「……あ、あれは……誘ってくれて……」

「ふ~ん? 大和くんってさ、誰にでも優しいし、誤解されやすいんだよね~」 「そうそう。麻里奈ちゃんって転校してきたばっかだよね? ちょっと目立ちすぎちゃったかなぁ」

 笑顔の口元は明るいのに、目だけが笑っていなかった。
 そのギャップが、じわりと胸を冷やしていく。

「悪気とかはないよ? ただ、言っといたほうがいいかなって思って」

 そして――
 一人が、そっと耳元に顔を寄せた。

「……あんたみたいなのが調子に乗ってるとね――いつか痛い目見るよ?」

 氷みたいに冷たい声だった。
 笑い声を残したまま去っていく彼女たちを、麻里奈はただ見送るしかできない。

 通学バッグのストラップが汗ばんだ手からすべり落ちそうになる。
 胸の奥に、冷たい水が少しずつ広がっていくような感覚。

 大和とステージで触れた手のぬくもりが――
 まるで遠い日の夢みたいに薄れていった。

(……わたし、なにか間違ってたのかな)

 その小さな問いは、夕焼け空に吸い込まれるように消えていった。

 
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