《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene5「君の味方」

いつもより少し早い時間。
 麻里奈はひとりで、下校の坂道をゆっくり歩いていた。

 胸の奥に残るざらついた気持ちを、夕方の風が優しく吹き抜けていく――
……そんなふうに思いたかったけれど、うつむいたままの自分は、どうしても顔を上げられなかった。

 そのときだった。

「――麻里奈さん!」

 不意に名前を呼ばれ、はっとして振り返る。
 少し息を切らせながら、大和が坂の下から駆け上がってきた。

「……大和くん?」

「待って。……一緒に帰ろうかと思って」

「うん……」

 返事はしたものの、いつものようには笑えなかった。
 それに気づいたのか、大和は並んで歩きながら、ぽつりと声をかける。

「……なんか元気ないみたいだけど、何か言われたの?」

 その一言が、胸の奥にしまい込んでいた不安を静かに揺らした。
 “何かあった?”じゃなく、“言われた?”――なんで、そんなふうに気づけるんだろう。

 麻里奈は小さく首を横に振る。

「……ううん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」

「嘘だ」

 優しいけど、まっすぐな声だった。思わず足が止まる。

「そうやって無理して笑うとき、目がちょっと揺れるんだよ。……俺、見てたから」

 逃げられない言葉に、麻里奈は視線を落とした。

「……わたし、なにか迷惑かけてるのかな」

「なんで、そう思うの?」

「今日……ちょっとだけ、陰口言われたの。大和くんのこと、勝手に近づいてるって」

 口にした途端、また後悔しそうになる。
 でも、大和は眉をひそめたまま、真剣な目で見つめてきた。

「やっぱり……。でも、お前は悪くない」

「でも……」

「俺が選んだんだよ? 一緒に出たいって、俺が言ったんだ。
 誰に何言われたって、後悔なんかしてないし」

 その言葉が、胸の奥にあたたかい灯のように染み込んでいく。

「それに――」

 大和はほんの少しだけ視線をそらし、でもすぐに続けた。

「俺は……お前が笑っててくれたら、それでいいんだ」

 驚いて見上げると、大和は少し気まずそうに頭をかいている。

「……べつに、変な意味じゃなくて。なんかさ、そう思うだけで、ちょっと頑張れるんだよな。
 でも……ごめんな、嫌な思いさせて。つらかったろ」

 そう言いながら、大和は麻里奈の頭をポンポンと優しく撫でた。

 麻里奈の頬が、夕日に染まったのか、それとも――

「ありがとう、大和くん」

 今度は、ちゃんと笑えた気がした。

 ふたりの距離が、また少しだけ近づいた気がした。

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