《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene6「気づきたくなかった気持ち」

 夜の部屋は、少し冷たかった。
 窓の外から吹き込む風が、カーテンをゆらしている。

 机の上には、音楽室で使っていたノート。
 開いたままのページに、あの文字が見える。

 「君とだったから、歌になった。」



 指先で、そっとなぞる。
 紙の感触が、なぜか胸の奥まで響いていく。

 ――あの夕焼けの坂道。
 「笑っててくれたら、それでいい」って言った彼の声。
 照れたように笑いながら、頭を撫でてくれたあの手。

 どれも、少し前のことなのに。
 まるで昨日のことみたいに、鮮明に思い出せる。

 (……どうして、こんなに覚えてるんだろう)

 思い出すたび、胸がぎゅっと締めつけられる。
 苦しいのに、嫌じゃない。
 むしろ、嬉しくて、どうしようもなくなる。

 (これって……なに?)

 友達? 仲間?
 違う。そんな言葉じゃ、もう足りない。

 彼が笑えば、それだけで安心する。
 彼が沈めば、心まで曇ってしまう。
 そんな自分に、気づきたくなかった。

 “好き”なんて言葉を口にした瞬間、
 この関係が壊れてしまいそうで――。

 だけど、もう嘘はつけなかった。

 (わたし、たぶん……大和くんが、好きなんだ)

 ノートを閉じる音が、やけに静かに響く。
 風がページの隙間を抜けていく。

 心の中に、小さな灯りがともった。
 まだ誰にも見せられないけれど、
 それは確かに、ここにあった。

 ――けれど、その光が届く日は、
 まだ遠い未来の話だった。



 
< 24 / 48 >

この作品をシェア

pagetop