《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene8「見たくなかったのに」

 校舎の裏側。
 放課後の静けさが、世界をゆっくり包んでいた。

 水筒を忘れて戻ってきた大和は、通路の先にふと人影を見つけて足を止めた。
 斜めに差し込む夕陽が、二人の輪郭をやわらかく照らしている。

 そのひとりは――麻里奈。
 そしてもうひとりは、同じクラスの榊だった。

(……榊、か)

 ただ見ただけのつもりだった。
 けれど、榊の口元が動いた瞬間、心臓がひときわ強く跳ねた。

「……気づいたら、好きになってた」

 確かにそう聞こえた。
 夕風に乗って、大和の耳の奥に刺さるように届いた。

 身体が、わずかに強張る。

(……何、言ってんだよ)

 本当は聞きたくなかった。
 でも、耳が勝手にその声を拾ってしまう。

 麻里奈は顔を伏せて、何かを返していた。
 けれど、その声は大和のところまでは届かなかった。
 風だけがさらりと通り抜けていく。

(……笑ってたか? 泣いてたか?)

 見ちゃいけないと思った。
 なのに、目が離せなかった。

 榊が麻里奈の手に触れようとした――その瞬間。

(……っ)

 大和は反射的に背を向けた。

 心臓の音だけが、やけに大きく体の中で響く。
 胸の奥がざらざらと痛んで、呼吸がうまくできなかった。

(なんだよ、あれ……告白、か?)

 理屈なんてひとつもない。
 ただ――見たくなかった。

 麻里奈が、誰かにあんな顔を向けているところなんて。
 それがどうしようもなく嫌で、苦しくて。

 でも、自分がどうしてこんな気持ちになるのかは――
 まだ、わからなかった。

 夕暮れの空が、にじんで見えた。
 それが涙のせいだと気づくまで、ほんの少しだけ時間が必要だった。

 
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