《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene9「すれ違う視線」

 朝の教室。
 窓から差し込む光が、机の上を淡く照らしていた。

「おはよう、大和くん!」

 麻里奈がいつものように声をかける。
 けれど、大和は一瞬だけ顔を上げただけで、すぐにノートへ視線を落とした。

「……おはよう」

 それだけ。
 声も、目も、どこか遠かった。

 ――え? なんか、そっけない。

 麻里奈は思わず足を止めた。
 すぐそばへクラスメイトたちがやってきて、大和はその輪の中で軽く笑い、自然に会話へ混ざっていく。

 いつもなら「元気?」って言ってくれるのに。
 今日は、まるで見えない壁ができたみたいだった。


---

 昼休み。
 麻里奈は迷った末に屋上へ向かった。

 金属の扉を押し開けると、風が頬を撫でた。
 その先――柵にもたれて空を見上げる、大和の背中があった。

「……ねぇ、大和くん。今日、お昼どうする?」

 思ったよりも小さくなった声。
 大和は振り向いたが、すぐに視線をそらす。

「……今日はいいや。あとで食べる」

「え? ……なにかあった?」

 心配して一歩踏み出した瞬間、
 大和はわずかに息を吸い込み、背中越しに言った。

「別に。麻里奈さんには、関係ないし」

 ――え……。

 風が止まったように感じた。
 麻里奈は立ち尽くし、声が出なかった。

「……どうして、そんな言い方するの?」

 返ってきた声は、小さくて硬い。

「ごめん。……放っておいて」

 風が吹き、大和の髪だけが揺れた。
 麻里奈はそれ以上近づけず、ただ静かにうつむいた。


---

 (どうして――)

 階段を下りる自分の足音が、やけに大きく響く。
 胸の奥で、ぽっかりと穴が開いたような気がした。

 文化祭も終わって、
 これからもっと仲良くなれると思っていたのに。

 少しずつ近づいていた距離が、
 気づかないうちに、遠ざかっていく。

(私……何かしちゃったのかな)

 言葉にならない不安が、
 じわじわと胸の奥に広がっていく。

 大和がどうしてあんな態度を取ったのか。
 麻里奈には、まだ何もわからなかった。

 
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