《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene10「気づきたくなかった気持ち」

 放課後の校庭は、いつもより静かだった。
 部活の声も遠くて、風の音ばかりが耳に残る。

 大和は、体育館裏のベンチに腰を下ろしていた。
 足元の砂を、つま先でただ無意味に蹴る。

(……最悪だ)

 屋上で突き放したときの自分の声が、まだ耳から離れない。
 「麻里奈さんには、関係ないし」――。
 本当はそんなつもりじゃなかった。ただ、あのときはどうしても顔を見られなかった。

 榊が麻里奈に向けていた、あのまっすぐな視線。
 それを見た瞬間、胸の奥がざらついて、息が苦しくなった。

(あいつ……断ったのか? それとも……)

 考えたくないのに、考えてしまう。
 麻里奈が誰かに笑いかけているところを想像するだけで、胸がずきんと痛んだ。

 ――これが何なのか、わかってしまいそうで怖かった。

 友達? 違う。
 でも、恋だなんて認めたら、もう後戻りできなくなる。
 そんなの、怖すぎた。

「……俺、何やってんだよ」

 ポツリと落ちた声は、風にすぐ消えた。

 あんな言い方するくらいなら、黙っていればよかった。
 麻里奈の顔、泣きそうだった。
 なのに、自分は逃げるように背を向けた。

 “守りたい”と思ってた人を、
 自分の手で傷つけた。

(……謝んなきゃ)

 そう思っても、顔を合わせる勇気が出ない。

 西の空が赤く染まり、沈みかけの陽が校舎の窓をオレンジ色に照らしていた。
 その光の中に、麻里奈の笑顔がふっと浮かぶ。

「……ほんと、バカだな、俺」

 大和は静かに息を吐いた。
 頬をかすめた風が、どこか冷たかった。

 
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